「アラベスク」 邑輝唯史


 

一滴の言葉が零れて戯れる水面

幾つもの円が現れて小刻みに揺れている

小さな痛み

やがて拡がっていく苦しみ

透明な水も湖底の泥に掻き混ぜられ

無邪気に太陽を愛したあどけなかった言葉も

汚れた衣服を着せられていく

 

透けていたはずの水滴も

言葉の上に垂らしてみると様々な色彩に変化する

それとて

掌に垂らしてもやがて零れていく

疑いのない苦しみ

掴みどころのない夢物語

水面に映る満月の舟は

繰り返すさざ波に言葉を降ろして微笑む

 

木の葉一枚舞い降りて

抱きつく感動

それの始まりは悔し涙

心の内側を見えないほどの豪雨

三つの母音が土豪となって堰き止める

崩壊してしまった文脈そして溢れた感嘆詞

乾いた水は夜空に吸われ

解読不能の文字が魚に食べられていく

 

幾つもの泡が破裂していく水面

ひとつの言葉が現れては消えていく波紋

いつかの喜びも

沈んでいって重なる堆積

汚れてしまった純粋な想いは永遠に

忘却と言う救いが夜空で輝いて

もう一度だけでもと一滴の言葉を掌に掬う


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